分譲マンション市場、これからどうなる?
<首都圏の分譲マンションの新規発売は年間3万戸台。92年以来の低水準>
2008年の年末、不動産業界のシンクタンクや大手デベロッパーの多くは、2009年の首都圏マンションの市場規模(新規発売戸数)を4万戸台の後半と予測していました。
この4万戸台後半という数字は、2008年の4.3万戸よりはやや多いという数字ですが、サブプライム問題が起こった2007年は6万戸、その前年の2006年が、7.4万戸に比較するとかなり少ない量です。
中期的にみると、首都圏のマンション市場は1994年以降、長い間、年間7万~8万戸くらいの水準で推移してきましたので、2008年はかなり「異常値」であるといえます。
そして、今年=2009年ですが、9月末現在で24,100戸、10月の月間供給戸数はまだ未集計ですが、4,000戸くらいになる見込みです。例年11月や12月は新規発売がやや少なくなることもあり、今年の年間供給量は、3万戸台半ばに落ち着きそうです。これは、1992年の2.6万戸以来の低水準となるのですが、この91年、92年はその前の88年から90年にかけて起こったいわゆる「バブル」経済とその破綻を経た後の時期で、やはり多くの在庫(売れずにのこったもの)が増え、今回と同じようにいくつかのデベロッパーの倒産などがあり、一時的に供給は減少した年です。
価格の状況はどうなんでしょうか。
首都圏の平均値で見ると、平均坪単価(価格÷専有面積[坪])は、2007年に210.4万円、2008年が214万円と若干あがり、2009年に入って207万円へ下落したという統計になっています。ただし、分譲マンション業界では、首都圏の場合、時計回りの渦巻き状に価格が伝染していくといわれてまして、たとえば「都心→城南→城西→城北→城東→神奈川→都下→埼玉→千葉」という流れです。(もちろんこんなにきれいに行くわけではないですが)
その見かたで見ると、都区部の価格動向が今後の価格状況を見るのに指標となるわけですが、東京の都区部は2007年をピークに2008年、2009年と下落しており、すでに下落傾向に入っているのがわかります。
<進む在庫の調整。実は2009年は2008年よりマンションが多く売れている?>
おおまかにいうと、不動産とくに分譲マンションを巡る市場は、
平常時→土地価格の上昇→マンション価格の上昇→在庫の膨張→新規供給の減少→在庫の減少→正常化という歴史の繰り返しであったわけです。
では、その「在庫の減少」は、今どんな状況なのでしょうか?
不動産経済研究所が発表する在庫は、2008年12月末現在で、12,424戸でしたが、9月末時点では6,840戸に減少しています。
先ほどの新規発売戸数とあわせて、状況を整理すると、
2008年は、新規発売は、約4.4万戸 年末在庫は約1.24万戸。これは、2007年に比較すると、新規供給は-1.7万戸で、在庫は+0.17万戸なので、実際に売れた戸数は前年比-1.87万戸という状況でしたが、2009年(弊社見込み)は、新規発売は、-0.9万戸、在庫は約-0.6万戸の見込みなので、実際に売れた戸数は前年比0。3万戸という計算になり、新規の供給が4.4万戸→3.5万戸に減少という状況からみると実際の減少は少ないことが分かると思います。
さらに、実感としては、「昨年よりも今年のほうがマンションは売れている」と思います。
まず、公表される「在庫」は、キャンセルの存在などから、実際に本当に売れていない戸数よりも多いと思われます。つまり、いわゆる在庫の消化は、もっと進んでいるという実感があります。
<マンションDBの「完売による掲載終了率」の上昇がそれを裏付ける「隠れたマンションブーム」>
また、これは業界にもあまり発表していないのですが、私どもが営業を担当する「マンションDB」の「完売による掲載終了」率が大きく上昇してきたことがそれを裏付けています。
2008年のそれは、だいたい月に首都圏では5%くらいの物件が、無事完売して、掲載を終了していましたが、2008年の年末からその率が上昇しはじめ、2009年はほぼ8~9%ぐらいの比率で完売し、掲載を終了しており、7月には11%に達しました。
関西も、首都圏ほどではありませんが、2009年のほうが高い掲載終了率となっています。
この状況を見ても、最近の売れ行きが、数値以上にいいことを示しています。
<本来の「需要量」をどう見ているのか?>
デベロッパー業界では、そもそも「新築分譲マンション」の適正規模はどのくらいなのかということについていろいろな意見がありました。
すくなくとも、これから少子高齢化社会を迎え、人口が減る日本の社会で、90年代に継続した年間に7万~8万戸の分譲マンションが出続けるのはちょっと無理があるかもしれません。詳細を書きだすと長くなりますが、90年代の8万戸市場は、80年代末のバブル崩壊を受けて、さまざまな経済の変化が、分譲マンションという商品に有利に働きつづけた結果でもありました。たとえば、企業の会計基準に変更にともない都心に有休土地を持っていることが不利になったり、メーカーの生産拠点が海外へ移って郊外の住宅地にある工場が不要になったりして、「用地の供給」が豊富だったことなどもマンションの大量供給の一因でした。
しかし、今年の新規発売戸数が4万戸を切るとすると、以前この水準にあったのは、80年代になりますが、このころの日本の30代人口は600万人台前半で推移していましたが、2010年代の30代人口は700万人台前半で推移しています。マンションの中心となる需要層は、30代から40代ですから、この年代の人口を見ると、80年代よりはだいぶ多いことがわかります。
いろいろな見方はあるのですが、私たちとしては年間6万戸程度の基礎的な需要が首都圏にあると見ています。
<これから分譲マンション市場は...>
このように、現在の分譲マンション市場は、
「新規供給の減少、在庫も減少」→「結果、デベロッパーサイドから見れば、売るモノがなく」なり、「エンドユーザーから見れば選択肢が狭まる」というのが、現状だったと思います。
こうした状況の中で、今デベロッパー業界内部がどう動いているかをまとめます。
まず、今回のリーマンショックによる金融引き締めによって、ここ10~20年の間に成長してきたデベロッパーのいくつかが破たんし、供給する会社数そのものが減少しました。また、マンション事業に対する金融機関の融資の絞り込みが厳しくなっていることで、企業としては健全なデベロッパーも、以前ほど自由にマンション事業を展開しにくい状況が、企業の分譲事業活動を制限しているのが現状です。
しかし、ここにきて、マンションの原価であり、ともに高騰していた「マンション用地価格」と「建築費」がそれぞれ鎮静化してきたということで、顧客の購入力に合わせた商品企画(=価格設定)が可能になり、だいぶ活発化の兆しが見えてきました。
確かに、雇用関係の厳しさは続き、収入の低迷などマンション購入にとっては、厳しい状況があることも事実ですが、需要があって、供給が少ないところに、商品が出てくるのは当然の経済原理ですから、これからの新規分譲マンションのラインナップが拡大してくるのはまちがいないと思います。
<市場変革期には、メーカーは商品企画へ注力するのが世の常>
市場や経済状況が、厳しい方向へ変化するとき、分譲マンションの商品企画は充実します。
今でも、90年代前半のバブルから立ち直ろうとしていたころ、分譲マンションの商品企画は大きく飛躍しました。さまざまな共用施設や、免震構造の普及、ソフトサービスの充実などは、ほとんど90年代の大規模マンション開発の中から生まれてきたものです。
今、「環境大国日本」といわれていますが、今後環境への配慮と、入居者のメリットの両立を実現したような分譲マンションが多く出てくると思います。また、所得が伸びない中で、コストパフォーマンスの視点もますます重要になると思いますし、それに対応する開発が出てくると思います。
いずれにせよ、「家」は一生にそう多く買う機会がある商品ではありませんし、市場が買い時だから買うというだけのものではないことは当然です。
しかし、広く分譲マンションを取り巻く環境を見ると、住宅を求める人が検討に値するものがこれから多く市場に出てくる流れにあることは確かです。