不況だからこそ「今」が買い時? 3周年を迎えるつくばエクスプレス沿線市場を読む

2008年07月22日

2008年8月「つくばエクスプレス」(以下TX)開業3周年。
TX沿線は、他の首都圏エリアと比較しても価格の高騰も大きく無く、買い得感があると思います。

折角「マンション業界コラム」と銘打ったコラムなのですから、今年はTXに関わるマンション業界内部の悲喜交々を時系列に沿って話そうと思います。

1:開業1年前(2004年)
「マンション業界はTX沿線に対してまだ引き気味。参入時期を窺う業者が多数」

TX沿線の土地の話がマンション業界で聞かれるようになったのは、開業の1年位前。ちょうどTX駅前の土地が都市機構等を経由して入札が開始された頃からです。

その頃は経済低迷期(今も?)で、マンションデベロッパー各社は土地の仕入れにも弱気でした。「TX?新線なんて売れるかどうか分からないし、あの辺は常磐線のバス便っていう位置付けだね。」などと言われている時代でした。

開業前に物件を売り出し始めたのは、郊外物件が得意な中堅デベロッパーや、元々駅前予定地に土地を持っていたか、以前から何らかの繋がりがある大手デベロッパー等でした。

開業前のTX「つくば」駅前のマンションが、バス便(当時)にもかかわらず凄い売れ行きだという話が入ってきても、「あれはつくば市の中心部だから特別だね」といった反応が業界では多かったのです。


2:開業直前(2005年前半)
「話題性が高まると、TX沿線への参入に興味を持ち始める業者がチラホラと...」

テレビや新聞でTXのニュースがよく紹介されるようになったとき、同じようにマンション業界でもTXの話題が取り沙汰されるようになりました。「○○駅で大規模ショッピングセンターができる」とか、「○○駅の駅前で○○不動産が大規模マンションを出すらしいが、売れるのか?」といった話でようやくマンション業界も盛り上がってきました。

折しも、都心部で土地入札の価格が上昇しはじめた頃でもあり「将来性があるならここら辺でやってもいいかもね」というデベロッパーが増えてきました。不動産のマーケティングをやっている私は、この頃デベロッパーのために各駅周辺の開発計画ばかり調べていたような思い出があります。


3:開業直後(2005年後半~)
「TX沿線物件の集客力の高さと、顧客の年収の高さに驚くデベロッパーが続出」

TXの開業はテレビや新聞等でもちょっとした話題になったのですが、その報道は必ずしも好意的なものではありませんでした。日中の平常時で乗客がかなり少ない車内の映像を出して「税金を使って空気を運んでいるようだ」などという意見も紹介され、ワイドショーではコメンテーターが苦言を呈する場面が見られました。

にもかかわらずマンション業界の方は盛り上がっていました。何しろ、開業前後に販売を開始した物件がいずれも驚異的な売れ行きだったからです。完売に次ぐ、完売。「どうしてあのような未開発な場所の物件が売れるのか...?」と訝るマンション業界の人もいました。

更に販売状況を詳細に分析すると、予想以上にお金持ちのお客様が集まる事が分かってきたのです。「あのマンションの最上階は地元の弁護士やお医者さんが買ったそうだ」とか「高年収の外資系の研究者がつくばの研究所と都心部の本社に行きやすいから人気があるみたいだ」とか、TX沿線の未開発感からは想像も出来ない現象が起きていたのです。

このような思わぬ結果に「(もっと高く売れたのに)価格設定を間違えたかな」と嘆息するデベロッパーの人もいました。私は常に思っているのですが、デベロッパー以上にお客様は賢く、且つ真剣に物件を見ていると思います。将来性や物件の価格等を勘案して、買い得と考えたお客様がデベロッパーの認識以上にいたという事でしょう。


4:開業1年(2006年)
「2006年、都心部の土地価格高騰で溢れたデベロッパーが多数参入」

開業1年後、マスコミのTXに対する評価は開業当初とは異なり、乗客の増加や街の発展を評価していく方向に変わりましたが、不動産業界にもある変化が現れました。

つくばエクスプレスの一日平均乗車人数の推移(首都圏新都市鉄道株式会社公表データ:流山市HPより)

この年の不動産業界のトピックは、お客様からの評判が悪い「新価格物件」です。新価格物件とは、今までのマンションより2割程価格が高い物件の事。土地入札の金額が上昇したことや、原材料費の高騰が大きな原因です。

この新価格物件は2006年の後半から都心部周辺で登場しはじめたのですが、土地の入札の段階で既に2005年頃から不動産業界では予想されていました。その新価格物件の波がTX沿線にも及んできたのが2006年です。

具体的な影響は、「新規参入デベロッパーの増加」と「マンション価格の上昇」という形で現れました。土地入札に参入するデベロッパーが増加して競争をしたため、土地の仕入れ価格が上昇して、結果としてマンション価格が上がるのは道理な話です。

では何故、都心部の土地の価格が上がるとTX沿線で物件を計画するデベロッパーが増えるのでしょうか?

不動産会社は普通、銀行から資金を借りて会社を運営しています。毎年借りたり返済したりを繰り返している訳ですが、借り入れ時に重要になるのは、来期の販売予定戸数。「来期は○○戸の販売予定ですから、○○億円の収入が見込めます。ですから○○億円貸して下さい」とデベロッパーは銀行に持ちかけます。

しかし、入札負けして土地が買えず、供給予定戸数が減ると、来期用の資金が借りづらくなります。「今期は1000戸供給した実績があります。来期は100戸しか仕込みが出来ていませんが、会社の規模を小さくしたくないし、再来期の土地の仕込みもあるし、今期と同額の融資をしてもらえませんか?」と言っても、銀行はとても首を縦に振らないでしょう。

一旦大きくなった会社は、中々供給量を減らす事が出来ないのです。都心部で入札負けが多くなったデベロッパーが、将来性が高く比較的安価で土地が買えるTX沿線に目を付けるのは当然の事でした。新規参入デベロッパーが競って土地を買った為、都心部と同様にTX沿線の土地の仕入れ価格は高めになりました。

このような動きが2006年全般を通してありました。実際にこれらの商品が市場に出てくるのは2007年頃になります。


5:開業2周年(2007年)
「2006年に仕込んだ物件が当初は善戦。しかし不動産不況が直撃すると...」

2007年になると、2006年に仕込まれた物件が次々と販売され始め、好調な物件もありました。これらの物件は概して開業当初の物件よりやや高めの価格でした。

価格高騰の理由は3つありました。
1. 土地の入札価格が上昇した
2. 原材料費が上昇した
3. 既存のマンションとの差別化しようと、設備・仕様が上質なものになった

高めの価格になったと言っても、TX開業当初の物件と比較しての事で、首都圏ではまだまだ安価な部類に入ります。周辺の開発が進んで来た事も考えると、お客様も「隣のマンションと比べると高いなあ」と言いながらも、総合的に見て買い得感を感じて購入された方が多いのです。実際、TX開業2周年の頃までは、開業時と同じ位に好調でした。

ところが、社会的には、不動産業界を震源とする不況が始まり、ほぼ同じ時期からサブプライムローン問題も発生しました。それらの問題と呼応するように「新価格マンションは高過ぎる」「今は買い時ではない」とう内容の新聞記事や雑誌記事が目立つ様になりました。そうなると一気にマンションが売れなくなります。

特に6月の改正建築基準法により建築確認が遅れ、中々販売ができなかった物件が集中して供給された2007年後半には、TX沿線でもお客様の奪い合いになりました。別に、このような現象はTX沿線のみならず、他の首都圏エリアでもいえる事なのですが、マンション業界全体が販売不振になると、最も早く影響が出るのが郊外エリアなのです。

マンション業界の不況が直撃した形で、開業2周年の2007年は過ぎていきました。


6:開業3周年(2008年前半)
「マンション販売は不振。ただTX沿線の力は着実に高まっており、相対的に割安感が」

2008年になると、マンション不況の影響は更に顕著になり、TX沿線全体で販売不振になりました。それに伴って新規に参入するというデベロッパーも減少。そして現在に至ります。沿線物件の販売状況を確認すると、2005年2006年なら既に売り切っているはずの物件が、まだ残っている状態です。

本来なら沿線周辺の開発が進むに従って、年々販売価格の上昇が継続するはずですが、2006年の価格で止まっています。そのため「TX沿線は、まだまだ買い得感のある価格で販売が行われている」という冒頭の発言に繋がります。

しかし、この様な状況はいつまで続くのでしょうか。今までの文章を読んでいただいた方には、分かると思いますが、TX沿線物件の販売不振はTX沿線物件の商品力に関わらず、不動産市場全体の流れによって起こされて来たものです。TX沿線自体は、現在も着実に乗降客を増やし、沿線の開発も進んでいます。

不動産市場全体を見て「今は買い時ではない」というメディアの言葉を参考にするならば、現在や今後のTX沿線の発展も一つの参考にしてみて下さい。この発展をどう見るかで、TX沿線物件の買い時が分かるのではないでしょうか。

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